やさしい著作権のお話
〜すぎやまこういちを囲む会にて〜
2002年9月27日(金) 日本音楽著作権協会・けやきホール
音楽には著作権があります。よく我々が使う標語で「人には人権・音楽には著作権」というのですが、これは非常に大切なことです。
21世紀は「知価社会」と言われます。いろいろな工業生産で物をつくる仕事は発展途上国など人件費の安い国へ移っています。だから中国などはそれで大発展していますね。
それに対して日本やアメリカなどの先進国は何を作ればいいのか?と言うと、人間の知恵が作り出したもので国が食べていく、という時代になるわけです。ですから音楽著作権にしてもそうですし、特許権など“人間の知恵とか頭脳が生み出したもの”をみんなで認めて大事にしていこういうことになるわけです。
著作権と言っても音楽だけにあるのではなくて、絵とか写真などにもあります。
写真で言うと、撮った瞬間に写した人に著作権があるわけです。
ドラゴンクエストのコスプレで言うと、みなさんが作った衣装など、著作権の一部は作った人にありますが、全部の著作権があると思ってはいけません。
ライアンなどの格好をしている人がいますが、元々は鳥山明さんのイラストが無ければ出来なかったデザインですから、一番もとの原著作権は鳥山明さんにあるわけです。
著作権というのは大きく言うと、「人格権」と「経済権」に分けられます。
「人格権」というのは、例えば僕が作ったドラゴンクエストのメロディに関しては、僕と言う人格があったから出来たメロディなのです。
「序曲」のメロディに関しては出来上がるまでに5分かからなかったかな。
30年前の曲で、今再び人気の「亜麻色の髪の乙女」のメロディは車で運転中に急に浮かんだメロディなのです。それでよく著作権に関して「たった5分で出来た曲にしては、ずいぶん稼げていいね。」と言われるのですが、これは5分ではないのです。
ドラゴンクエストの「序曲」を作ったとき、僕は54歳の時です。ですから、「序曲」が出来上がるまでには「5分+54年」と考えてください。つまり、僕の54年間の人生が無ければ、あの「序曲」は出来なかったわけです。
だから自分の作品は、僕の人格の一部なのです。ドラゴンクエストのメロディにしても、「亜麻色の髪の乙女」にしても、僕の人格=僕の分身なのです。「人の人格を侵してはいけない」というのは民主主義国の大事な鉄則ですから、そこに音楽の「人格権」というものが発生するわけです。
例えば、ある人が作った曲を変なアレンジをしたり、作曲者を貶めるような使い方をしたり、作曲者の考え方と全然違う替え歌を作ったりと、作曲者の人格を侵してはいけないということで、「人格権」というもので護られているわけです。
僕も変な使い方をされなければ問題はないのですが、例えば僕の創ったドラゴンクエストの音楽をどこかの団体が僕の思想、信条と正反対の考え方や、主張をするために使用するようなことがあればクレームをつけますし、使用を拒否する権利があるのです。これが「人格権」です。
そして次に「経済権」というのは、例えば僕の作った音楽をどこかで使用したい場合は使用料を支払ってください、というのが「経済権」です。
音楽の著作権には経済権というのがつきます。
音楽を使ったならば、使ったということに対する対価を支払うことになるわけです。
これは電車に乗る場合も、「電車でどこかへ運んでもらった」事に対する対価を支払うという点で同じですし、電話を例にとれば「電話という便利なものを使用した事」に対して対価を支払う、ということで音楽を何かの形で使ったことに関しては対価を支払うということが当たり前のことになるわけです。
音楽の著作権に関してはJASRAC(日本音楽著作権協会)に僕の曲は全部信託しているわけですから、JASRACで「音楽をどう使いたいのか」ということを届ければ、手続きを経て、使えるようになるわけです。
さて、今回の「囲む会」はインターネット上で応募をしましたので、来て下さったみなさんは何かの形でインターネットに関わっている方が多いと思います。
今、この時代になって我々著作権者が1番悩んでいるのは、インターネットが普及し、電子メディアが普及するにつれて、音楽が非常に簡単にコピーできるようになったということです。
昔、カセットテープにコピーしたものは音質が下がりましたが、今はデジタルでコピーしたものは劣化しないで、そのままの状態でコピーされてしまう。
昔、円盤(レコード)の時代は、中古というのがありましたね。中古というのは新品に比べて溝が磨り減っていたり、傷がついていたりして音質が下がっていたものですが、今の中古のCDなどの内容は新品と同じで我々も困っています。
最近はインターネットのホームページなどで色々なMIDIデータを載せたりする人がいますね。ドラゴンクエストのMIDIを載せている人もいるみたいです。
インターネットのHP上に音楽を載せる方はJASRACに届けて認証マークをもらえば利用できるわけです。具体的にはそんなに高いわけではないです。
インターネット上に音楽を載せる場合(JASRAC・会務部の説明)
個人で「無料」で配信をする場合・・・
10曲までで年間1万円です。
これは1年間、曲を毎日変えたとしても1万円です。
月額ですと月々千円になります。
もし「有料」で配信する場合・・・
簡単な例として、1曲100円の情報量をとる場合、1曲につき7.7円(7円70銭)を支払うことになります。
Q.1 「曲を編曲した場合、例えばユーロバージョンにした場合、まったくメロディが同じではないとか、曲調が異なる場合はどうなるのでしょうか」
すぎやま基本的にはどういう編曲をしても、原曲の権利は残ります。
JASRAC著作権のある楽曲というのは、著作者の死後50年間、著作権が残ります。
ですから今流行りの歌などは原著作者がいるので、その方にお金が行くことになります。
例えばソーラン節やベートーヴェンの曲などは著作者の死後50年を経ていますので、著作権が消滅してPD(Public Domain)と言って公共の所有となります。そういうものは色々な方が編曲をすることが出来てその編曲のものを使用したら、編曲者が著作者になります。
Q.2 「すぎやま先生の場合は著作権をJASRACに護られているわけですが、昔のゲーム音楽 などはJASRACから護られていない音楽もあると思うのですが・・・」
すぎやま音楽著作権というのは、先ほども言いましたがその曲を作った瞬間に発生するものです。どこかの会社の社員が給料の一部で作った場合や例えばそのメロディを作ったのが小学生であろうと、プロ・アマを問わず盗作で無い限りそのメロディを作った人に著作権が帰属するわけです。その後に著作権の「経済権」の部分は制度上、JASRACに信託しているかどうか?ということで扱いが変わってきます。
JASRAC今、すぎやま先生が仰ったのは法人著作ということで、社員として就業規則などに「あなたの作ったものは会社に著作権があります」ということであれば法人著作になるわけです。
すぎやま先生のように個人の著作物との違いは、保護期間です。
法人著作に関しては公表後50年で著作権が切れます。
個人の場合は著作者が亡くなってから50年という違いがあるので大分違います。
JASRACとの信託は2通りあります。
すぎやま先生の場合は作家としてJASRACに信託をされています。これには1つだけ条件があり、「あなたの作品が第三者に広く使われていますか?」ということです。もし自分で作って机の中にしまっておいて時々聴く、ということであればそれはJASRACに登録しても著作権使用料を生み出さない物になってしまいます。
JASRACは手数料で成り立っている会社なので、それならば広く公表さ れたら信託してください、ということになります。
あとは、音楽出版社に著作権が譲渡されている場合が多いです。
例えば、作家がJASRACに信託をしていなくても、著作権を預けた出版社がJASRACのメンバーであれば、その出版社の楽曲として、JASRACに権利が来るということがあります。
もし全くそのような関係がない方の場合はご本人と使用者の間で使用料を交渉していただくことになります。
というわけで、JASRACに登録をしなければ著作権が発生しないというわけではありません。
すぎやま今の説明でわかるように、曲を作った瞬間から著作権は発生するわけですが、JASRACに登録されればJASRACが使用料を徴収して作家に配ってくれる。
ですからお金を生む状態の曲でなければ登録はされないということです。
Q.3 「いわゆる、サンプラーといわれるものが一般的になってきて、サンプリングというものがたくさん普及しました。特にヒップホップなどでは曲の本当に一部だけ、例えば頭のジャン!という部分だけを使っている事もありますが、そういうものの届け出と著作権の扱いについて教えてください」
JASRACサンプリングというのはアレンジの一種とみなされると思います。
JASRACとして扱うのは作詞と作曲なので、サンプリングした人が著作者となることはないです。ただ、サンプリングをすることの承諾を得られた方がいいと思います。楽曲としてお預かりするのは作詞と作曲です。
すぎやま今、あっちこっちからの曲からサンプリングした、いわゆるパッチワークのようなものがよくありますよね。そのポーンと持ってきたものに関しての著作権はサンプリングした元の曲にあるわけですから、サンプリングした人には帰属しないというのが普通の考え方ですね。ただ、パッチワークの仕方に関しては、その組み合わせを考えたということに対してある種の著作権が発生したり翻案権が発生するということもありますけれど、基本的にサンプリングするのに元の著作者に無断で行うというのは、著作権侵害になると思います。
Q.4 「すぎやま先生のドラゴンクエストVIでは『悪のモチーフ』を色々な場面で使っていますが、 もし他の作曲家が偶然にも別の作曲家が作った曲を一部だけでも似てしまった場合は 著作権侵害になるのでしょうか?」
すぎやまこれはちょっと難しい問題で、昔、「5秒以内なら盗作ではない」とか「4小節以内なら盗作ではない」という俗説がありましたが、これは間違いです。
これがあの曲だ、とはっきりわかればこれは侵害になります。ただ、「悪のモチーフ」のようにラーソラファーだけの組み合わせだけだと順列組み合せの点からみても、一致する確率というのは常に存在します。そうなった場合に、僕らから見て「これは故意であるか」あるいは「偶然、確率の問題で一緒になってしまったのか?」ということの判断が大事になってくると思います。それでどんなに短くて「ここは違いますよ」と言っても明らかに意図があれば、これは盗作になります。
例えばどこかで競馬のゲームを作る事になったとき、製作者から競馬のファンファーレを作るように言われて、僕の曲を使えばいいのに、著作権使用料を払うのがイヤだからと競馬場へ録音機を持って行って録音してそっくりのものを作って「G1のファンファーレと少々似た点はあるものの違う曲だ」と言っても明らかにその意図が証明されれば 盗作ということになるわけです。偶然ではないことが証明されれば盗作になります。
ドラゴンクエストのレベルアップの音楽のように短い曲であっても、ちゃんと著作権が存在します。
Q.5 「曲を作っている時に、他の曲からインスピレーションを受けることはありますか?」
すぎやまそういうことはあります。それはどういうことかと言いますと、曲を作る時にこの曲は音楽の何語で書こうか?ということをよく考えます。
ドラゴンクエストのお城のシーンでは「音楽のバロック語」で書くようにしています。よく似ていると言われるのが、ドラゴンクエストIIIの「王宮のロンド」の出だしとバッハのブランデンブルグ協奏曲と似ていると言われることがあります。でも、これはブランデンブルグをコピーして同じ曲を作ろうと思ったわけじゃなくて、音楽をバロック語で考えて曲を作っていると音楽のトニックから出る、移動ドで言うと「ドミソ」のハーモニーではドミソドという出だしは、ごく普通の出だしです。恐らく過去の作曲家でドミソドと始まる曲を書いた人はたくさんいると思うのです。ですから出だしは似てしまったけれど、その後は全然違うのでこれは盗作ではないのです。
場面によっては、例えば空を飛ぶシーンなどでは「音楽のフランス語」で、カジノの曲などはジャズ系なので「音楽のアメリカ語」で書いてありますよね。それからドラゴンクエストIIIのジパングではヒミコが出てますが、そこでは「音楽の日本語」ということで雅楽の調子で書いています。
ですから、影響を受けるというよりは、「ここは音楽の何語で書こうか?」という意識で作っているので、音楽の影響を受けるというよりは「先人が作り上げてきた音楽の言語を自分がどう使うか?」ということと理解して頂ければと思います。
Q.6 「ドラゴンクエストの音楽に歌詞を勝手につけて歌ってしまったのですが、このような場合にJASRACにどのように届ければよいのでしょうか?またこれからも同じような活動をしていく場合にどのような届け出が必要でしょうか?」
JASRAC届出は演奏と録音の2つに分けられます。
歌ったということは、演奏したということの扱いになります。演奏というのは「空気に向かって」ということです。ですから放送も演奏扱いになります。
それに対して録音というのは、音を入れるものですからレコードもCDもカセットもそれから映画など、音が残る物はすべて音が入れられるという点で同じ扱いになります。
まず演奏に関して、お金がかかる場合というのは3つのパターンがあります。つまり、最終的にすぎやま先生にお金が支払われる場合というのは
1.入場料を取っている場合
2.出演者にギャラが支払われている場合
3.営利を目的としている場合
以上の3点のどれかに当てはまる場合は、JASRACを通して使用料が必要になります。ただし、お支払い頂くのは歌っている方ではなく、主催者が手続きをする必要があります。
それから歌の無い曲に歌詞をつける場合は、先ほどもお話がありましたが、人格権のひとつで「同一性保持」というような権利がありますので、一言事前にお話をされたほうがいいと思います。
自費でCDを作ったりする場合は、それは定価が無くてもJASRACに使用料をお支払いいただく必要があります。
それは原曲に対しての使用料です。